相続が開始されると、色々としておかねばならない手続きが生じます。
ここでは、相続開始からしておかなければならない期限のある手続きについて『相続手続きチェックリスト』と日本法に規定されている『民法に定められている相続について』に分けて記述させていただきます。
相続手続チェックリスト
ここに出てくる手続きのうち、社会保険に関する書類作成及び提出代行業務は『社会保険労務士』、税務に関する書類作成は『税理士』、裁判所への申し立てするための書類作成及び提出代行業務は『司法書士』の独占業務になります。(ここでの司法書士と弁護士の違いは代理権の範囲になります。)
それ(相続人本人が手続きしなければならないのも含む)以外が行政書士業務です。
- いつまでという期限はありませんが、相続開始後速やかに行うべき手続き
-
手続き 必要なもの □遺言書の有無の確認 【公証役場で検索する場合】
□遺言者死亡の記載があり、かつ、
遺言者との相続人等利害関係人の
利害関係を証する戸籍謄本等
□相続人(受遺者)の本人確認資料※1 等遺言書がある場合、以下の
手続きの要否を確認します。□公正証書遺言以外の場合、
遺言書の検認□遺言書の検認の申立書
□遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
□相続人全員の戸籍謄本
□自筆証書遺言又は秘密証書遺言 等□遺言執行者が必要な場合、
遺言執行者の選任□遺言執行者の選任の申立書
□遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本※2
□遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
□遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の
写し※2
□利害関係を証する資料※3 等□相続人の調査・確定 □戸籍等の発行申請書
□戸籍請求者の本人確認資料※4
□(郵便請求の場合)定額小為替 等
※2申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から
5年間保存)は添付不要です。
※3親族の場合,戸籍謄本(全部事項証明書)等です。
※4運転免許証、写真付きの住民基本台帳カードなどの書類です。
遺言書の有無の確認は、公正証書遺言の場合、公証役場でオンライン検索が可能です。
また、自筆証書遺言又は秘密証書遺言の場合は、被相続人が大切なものを保管していた場所などを探してみることをおすすめします。
自筆証書遺言又は秘密証書遺言の検認は家庭裁判所にて行われます。
上記の表の「必要なもの」は共通事項でそれに加えて次の場合でそれぞれ必要な書類が変わってきます。
【相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合】
●遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限ります
(例:相続人が祖母の場合,父母と祖父))で死亡している方がいら
っしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原
戸籍)謄本
【相続人が不存在の場合,遺言者の配偶者のみの場合,又は遺言者の(配偶者と)の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合】
●遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原
戸籍)謄本
●遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
●遺言者の兄弟姉妹に死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉
妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
●代襲者としてのおいめいに死亡している方がいらっしゃる場合,その
おい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
また、注意事項として検認手続きを行わず遺言書を開封した場合、遺言書は無効にはなりませんが、5万円以下の過料に処されます。
(民法第1005条)
遺言執行者の選任は家庭裁判所にて選任されます。
- 相続開始から7日以内
-
手続き 必要なもの □「死亡届」の提出 □死亡届
□死亡診断書(死体検案書)※
□届出人の印鑑□「死体火(埋)葬許可申請書」の提出 □死体火(埋)葬許可申請書
合は死体検案書)の併用形式が殆どです。
この2つの手続きは被相続人の住所地の市区町村役場で原則同時提出です。
また、『死亡診断書(死体検案書)』は下記の手続きの必要書類でいくつか提出する必要がありますので、必要ごとに病院に取りに行く手間を省くために「死亡届」の提出前に10部くらいコピーしておくとよいかと思われます - 葬儀後なるべくすみやかにしておくべきこと
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手続き 必要なもの □電気の名義変更 □お客さま番号が記載されている
「電気ご使用量のお知らせ(検針票)」等□ガスの名義変更 □お客さま番号が記載されている
「ガス使用量のお知らせ(検針票)」等□水道の名義変更 □お客様番号が記載されている
「水道使用量のお知らせ」「領収書」等□電話(NTT)の名義変更 □電話加入権等承継・改称届出書
□死亡の事実及び相続関係が確認できる
書類(写し可)※1
□新契約者の印鑑□インターネットの名義変更 □承継届
□相続関係が確認できる「戸籍謄(抄)本」
または「住民票」の写し□携帯電話の解約・承継 □携帯電話機本体
(ICカード対応機ならICカードも)
□契約者の死亡の事実が確認できる書類※2
□来店者の本人確認書類※3
□来店者の認印
□月々の支払方法に応じた持ち物 (承継
の場合必要です)※4□NHKの名義変更・解約 下記参照 □クレジットカードの解約 下記参照 □運転免許証返納 □運転免許証
□死亡の事実がわかる書類
(死亡診断書の写し、戸籍謄本の写し等)
□届出人の身分証明書(運転免許証等)
□届出人の印鑑□パスポート返納 □パスポート
□死亡の事実がわかる書類
(死亡診断書の写し、戸籍謄本の写し等)
※旅券事務所により必要書類が異なる場合
があるので事前確認を。
・全部事項証明書(戸籍謄本)※
・個人事項証明書(戸籍抄本)※
※ 現契約者との相続関係が確認でき、死亡年月日の記載があるものです。 死亡年月日の記載がない場合は、全部事項証明書(戸籍謄本)・個人事項証明書(戸籍抄本)とあわせて、死亡の事実が確認できる住民票(死亡年月日の記載があるもの)、死亡診断書、埋葬許可書、 いずれか1点が必要です。
・遺言書 ※(公正証書の場合を除き、家庭裁判所の検認があるもの)
※遺言書内において、相続関係が確認できない場合には、その他に全部事項証明書(戸籍謄本)等が必要となる場合があります。なお、相続権のない方へ遺言書により名義変更する場合等は、「譲渡」のお手続きとなります。
・法定相続情報一覧図(法務局発行)
※その他、提出いただく書類において、新契約者の氏名・生年月日の確認が出来ない場合、別途新契約者の公的書類(運転免許証・パスポート・健康保険証等のいずれか1点の写し)が必要となる場合があります。
※2戸籍謄本、戸籍抄本、除籍謄本、除籍抄本、住民票(除票)、会葬礼状/新聞のお悔や
み欄、死亡届、死亡診断書、火葬(埋葬)許可書、香典返し、斎場使用料の領収書等
のいずれか1つです。
※3運転免許証、マイナンバーカード(個人番号カード)等いずれか1つです。
※4金融機関届出印、口座番号の控え、キャッシュカード、クレジットカードなどです。
電気・ガス・水道・インターネットの名義変更及びインターネットの解約、NHK・クレジットカード解約の手続きは基本的には電話連絡からになります。
電話(NTT)の名義変更の手続きは「電話加入権等承継・改称届出書」のダウンロードからになります。
携帯電話の解約はお近くの携帯電話ショップでの手続きになります。
携帯電話の承継(名義変更)も手続き先は同じです。契約先によって多少必要なものが異なりますが、概ね表のとおりです。
NHKの名義変更は電話連絡の他、インターネットからでも手続きができます。
●相続開始から10日以内~3ヶ月以内はこちらから
●相続開始から4ヶ月以内~相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内はこちらから
●相続開始から2年以内~5年以内はこちらから
民法に定められている相続について
- 相続の開始
- 相続は死亡によって開始します。(民法第882条<以下第~条と表記します>死亡には失踪宣告(第30、31条)や認定死亡(戸籍法第89条)も含まれます。
また、相続は被相続人(相続される財産、権利、法律関係の旧主体の方)の住所において開始します。(第883条) - 相続の承継と例外
- 相続人(被相続人の財産上の地位を承継する方のことです。)は、相続開始の時(被相続人の死亡の時)から、被相続人の財産に属した一切の 権利義務を承継します。(第896条)
ただし、被相続人の一身専属権(その方自身に帰属させなければ意味のない権利、あるいはその方自身でなければ行使できないような権利)は、承継しません。(第896条ただし書)
一身専属権として以下のものがあります。
①代理権における本人あるいは代理人の地位(第111条第1項第1号・第2号)
②定期の給付を目的とする贈与(定期贈与第552条)
③使用貸借における借り主としての地位(第599条)
④委任における委任者あるいは受任者としての地位(第653条)
⑤民法上の組合の組合員としての地位(第679条)
⑥定期預金の契約(銀行が特別に認めた場合を除きます。) - 相続能力
- 相続能力(相続人となり得る一般的資格)について法人は認められませんが、胎児は「既にに生まれたものとみなす」とされ認められます。ただし、その後死産だった場合は認められなくなります。 (第886条)
ちなみに胎児はこの他に不法行為による損害賠償請求(第721条)、受遺者として(第965条)の権利能力が認められています。 - 代襲相続、相続人の廃除、法定相続分、指定相続分、遺留分、相続欠格
- これらは、遺言と重複しているので割愛させていただきます。
「代襲相続」、「相続人の廃除」、「法定相続分」は遺言の『遺言がないとどうなるのか』の項で
「指定相続分」、「遺留分」は遺言の『遺言事項』の項で
「相続欠格」は遺言の『遺言手続』の項で記載させていただきましたのでこちらからご参照願います。 - 相続財産の共有
- 相続人が数人あるときは相続財産は共同相続人の共有に属することになります。(第898条)
- 相続回復請求権
- 相続欠格者、相続放棄者等本来相続人でないのに相続人を装っている方(表見相続人・不真正相続人などと呼ばれています。)が、遺産の管理・処分を行っている場合、(真正)相続人は遺産を取り戻すことができます。これを相続回復請求権といいます(第884条)
ただし、相続回復請求権は(真正)相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅します(第884条前段)。
また、(相続権侵害を知っているかどうかにかかわらず)相続開始の時から20年を経過したときも消滅します(第884条後段) - 特別受益者、寄与分
- 特別受益者の相続分
共同相続人中に被相続人から特別受益を受けた方については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産について持戻しを行います。
特別受益には次のようなものがあります。(第903条)
1.遺贈
2.婚姻のための贈与
3.養子縁組のための贈与
4.生計の資本として贈与
5.学費の援助
寄与分
共同相続人中に被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした方については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産を取得させる寄与分の制度があります。
特別の寄与には次のようなものがあります(第904条の2)
1.事業に関する労務の提供
2.事業に関する財産上の給付
3.療養看護
4.その他の方法 - 相続分の譲渡と相続分取戻権、相続分の放棄
- 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人はその価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます(第905条第1項)。
ただし、この取戻権は1ヶ月以内の行使が必要です。(第905条第2項)。
相続分の放棄は遺産分割前に財産を放棄することの意思表示であり、その相続人の相続分を他の相続人に法定相続分の割合で譲渡するという効果を持ちます。 - 遺産分割
- 共同相続の場合において、相続分に応じて遺産を分割し、各相続人の単独財産にすることを指します。
●遺産分割の基準(第906条)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して遺産分割します。
●遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲
(第906条の2)
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなせます。
●遺産の分割の協議又は審判等(第907条)
共同相続人は、下記(第908条)の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができます。
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。
ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については家庭裁判所に請求することができません。
遺産分割を家庭裁判所に請求した場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁じられることがあります。
●遺言による分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止(第908条)
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、もしくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができます。
●遺産の分割の効力(第909条)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じます。ただし、第三者の権利を害することはできません。
●遺産の分割前における預貯金債権の行使(第909条の2)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に法定相続分及び代襲相続人の相続分の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに150万円を限度とされています。)については、単独でその権利を行使することができます。
この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなされます。
●相続の開始後に認知された方の価額の支払請求権(第910条)
相続の開始後認知によって相続人となった方が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有します。
●共同相続人間の担保責任(第911条)
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任(給付した目的物または権利関係に状態や性質が欠けている場合に、当事者間の公平を図る目的で、売主等が負担する損害賠償等を内容とする責任)を負います。
●遺産の分割によって受けた債権についての担保責任(第912条)
各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の財産上の支払い能力を担保します。
弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の財産上の支払い能力を担保します。
●財産上の支払い能力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担
(第913条)
担保の責任を負う共同相続人中に債務を返済する財務上の支払い能力のない方がいらっしゃるときは、その債務を返済することができない部分は、求償者及び他の財務上の支払い能力のある方が、それぞれその相続分に応じて分担します。
ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができません。
●遺言による担保責任の定め(第914条)
上記(共同相続人間の担保責任(第911条)、遺産の分割によって受けた債権についての担保責任(第912条)、財産上の支払い能力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担(第913条))は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用されません。 - 相続の承認及び放棄
- 相続は被相続人の権利義務を相続人が承継する効果がありますが、実際に相続を承認して権利義務を承継するか、あるいは、相続を放棄して権利義務の承継する権利を喪失させるかは各相続人の意思に委ねられています。
ただし、相続人が第921条に規定される事由を行ったときは下記の『単純承認』をしたものとみなされます。
相続人が被相続人の権利義務の承継を受諾することを『相続の承認』といい、権利義務の承継を受諾する範囲により『単純承認』と『限定承認』に分けられます。相続人が被相続人の権利義務の承継する権利を喪失させることを『相続の放棄』(相続放棄)といいいます。
なお、被保佐人が相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をするには、その保佐人の同意を得る必要があります(第13条第1項第6号)。
熟慮期間
相続の承認・放棄をすべき期間(熟慮期間)には制限があり、相続の承認や放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内にしなければなりません(第915条第1項本文)。
ただし、熟慮期間は利害関係人や検察官の請求により家庭裁判所が伸長することができます(915条1項但書)。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続開始の原因となるべき事実を知り、かつ、それによって自分が相続人となったことを知った時をいいます(大決大正15年8月3日民集5巻679頁)。
相続人は相続の承認や放棄をするまで、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければりません(第918条第1項)。
単純承認、限定承認、相続放棄
『単純承認』
相続人が被相続人の権利義務を無限に承継することをいいます。
(第920条)
また、次のどれかにあてはまれば相続人は単純承認をしたものとみなされます。<法定単純承認(第921条)>
1.相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為
※1及び第602条に定める期間を超えない賃貸※2をすることは、単純
承認をしたものとみなされません。
2.相続人が熟慮期間内※3に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3.相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全
部若しくは一部を人に見つからないようにこっそり隠し、自分のものと
して相続財産を消費し、又は相続財産を知りつつもこれを相続財産の
目録中に記載しなかったとき。
ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった方
が相続の承認をした後は、原則どおり相続の放棄になります。
※1財産の価値を現状のまま維持する行為のことで、具体的には家屋の修繕等を指します。
※2下記の賃貸借、期間になります。
1.樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借は10年
2.樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借以外の土地の賃貸借は5年
3.建物の賃貸借は3年
4.動産の賃貸借は6ヶ月
※3上記の熟慮期間(相続の承認や放棄は自己のために相続の開始があったことを知った
時から3ヶ月以内)のことです。
『限定承認』
相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続人が相続の承認をすることをいいます。
(第922条)
相続人が数人いらっしゃれば、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみできます。(第923条)
相続人は、限定承認をしようとするときは、熟慮期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません。(第924条)
相続人が限定承認したときは、その被相続人に対して有した権利義務は、相対立する法律的地位(例えば権利者と義務者等)が同一人に帰属することによる消滅はしなかったものとみなされます。(第925条)
また、限定承認とは、相続人にいわば相続財産承継において有限責任という恩恵をもたらすものであるから、相続債権者との利害調整が必要であり、民法では第926条から第937条までに詳細な手続が規定されています。
限定承認者の管理義務は熟慮期間中の管理義務と同じく、「固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければなりません」です。(第926条)
この他にも・・・
●相続人が家庭裁判所に限定承認の申述を行った後は、5日以内にすべて
の相続債権者および受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて公告を行い
(第927条第1項)、知れている債権者には個別に催告を行います。(同条
第3項)
●公告期間満了後、相続債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済
します(第929条)。
●相続債権者に弁済後、受遺者に弁済します(第931条)。
●相続債権者・受遺者に弁済をするために相続財産を売却する必要があると
きは、競売によります(第932条本文)。
●ただし、相続財産の全部または一部について、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い価額を弁済することにより、競売を止めることができます
(第932条ただし書)。
等など
このように相続放棄の規定と比べて手続が煩雑であり、かつ限定承認をした方にさまざまな義務を強いる内容になっているので、限定承認が選択されにくい原因の一つとなっています。
『相続放棄』
相続人が遺産の相続を放棄することをいいます。
被相続人のプラス財産(預貯金や不動産等)よりマイナス財産(借入金、未払金、連帯保証債務等)が多いあるいはほとんどマイナス財産しかないなど相続に魅力が感じられないケースや、家業の経営を安定させるために後継者以外の兄弟姉妹が相続を辞退するときなどに使われます。
相続の放棄をしようとする方は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。(第938条)
相続の放棄をした方は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。(第939条)
相続の放棄をした方は、その放棄によって相続人となった方が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません。(第940条)
相続の承認及び放棄の撤回及び取消し
相続人が相続の承認または放棄をしたときは、それ以後は熟慮期間内であっても撤回できません(第919条第1項)。
ただし、民法総則および親族編に定められる取消原因があれば追認(事後同意)ができるときから6ヶ月間取消しをすることができます。
(第919条第2項、第3項)。
この場合に限定承認または相続の放棄の取消しをしようとする者は家庭裁判所に申述しなければなりません(第919条第4項)。 - 財産分離
- 相続財産と相続人の財産が混同しないように分離、管理、清算する手続のことです。
財産分離には相続債権者または受遺者の請求(第941条から第949条)と相続人の債権者の請求(第950条)があります。
財産分離は第941条から第950条まで規定されているものの、実際にはほとんど利用されていないようです。 - 相続人の不存在
- 相続人の存在が明らかではない場合、相続財産は相続財産法人となり
(第951条)、利害関係人又は検察官の請求があれば以下の相続人不存在確定手続がとられることになります
●相続財産法人の成立(第951条)●利害関係人又は検察官の請求による
家庭裁判所の相続財産管理人の選任とその公告(第952条)
~第一の捜索期間~
・公告期間は2ヶ月(第957条1項前段)で、この公告期間内に相続人がい
らっしゃることが明らかにならなかったときは次の捜索段階へ移りま
す。
●相続財産管理人による相続債権者及び受遺者に対する請求の申出をすべき
旨の公告(第957条1項)
~第二の捜索期間~
・公告期間は2ヶ月以上で(第957条1項後段)、以後、相続債権者及び受
遺者との清算手続に入ります。この公告期間内に相続人がいらっしゃる
ことが明らかにならなかったときは次の捜索段階へ移ります。
●相続財産管理人又は検察官の請求による家庭裁判所の相続人の捜索の公
告(第958条前段)
~第三の捜索期間~
・公告期間は6ヶ月以上です(第958条後段)。
・相続財産法人の成立から相続人不存在の確定までの期間に相続人がいらっしゃることが明らかになったときは相続財産法人は成立しなかったものとみなされます(第955条本文)。ただし、相続財産管理人がその権限内でした行為の効力を妨げません(第955条但書)。
●相続人の捜索の公告期間の満了により、相続人不存在が確定し、相続人
並びに相続財産管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は権利行使
ができなくなります。
●特別縁故者(被相続人と生計を同じくしていた方や被相続人の療養看護に
努めた方など)に対する相続財産の分与
・特別縁故者の相続財産分与請求は相続人不存在確定後3ヶ月以内にする
必要があります(第958条の3)。
●残余財産の国庫への帰属(第959条)
・特別縁故者に対する相続財産の分与がなく、残った相続財産は、国庫に
帰属します。
しかし、この場合は上記の通り利害関係人又は検察官の請求があってこそなので、それがないと相続財産管理人が選任されません。
その結果、相続財産が不動産であれば『所有者不明家屋・土地』となる可能性があります。
それが遺言の冒頭でも記述したとおり空家問題の要因の一つになります。相続人がいない状態で不動産所有者が亡くなられてしまって『遺言』でその不動産についてどうして欲しいかという希望を残しておかないと起こりうる問題なのです。