遺言

 遺言とは財産上、身分上について最終意思表示を反映させるための要式行為です。
 要式行為とは、一定の方式を踏むことが必要とされる法律行為です。遺言の場合、民法定める方式に従わなければ全て無効となります。(民法<以下第~条と表記します。>第960条)

 遺言がないことにより、相続を巡り親族間で争いが起こることが少なくありません。
 また、現在社会問題化になっている空家問題も「遺言があれば」というケースも幾つか見受けられます。

 以下遺言について詳しく表記します。

遺言はいつすべきか
 遺言は、死期が近づいてからするものと思っておられる方がいらっしゃいますが、それは全くの誤解です。人間は、いつ何時、何があるかも分かりません。いつ何があっても、残された家族が困らないように配慮することが、遺言の作成ということなのです。

 つまり、遺言は、自分が元気なうちに、家族のために、自分に万一のことがあっても残された方が困らないように作成しておくべきものなのです。ちなみに、最近では、かなり若い人でも、海外旅行へ行く前等に遺言書を作成する例も増えています遺言は、後に残される家族に対する最大の思いやりなのです

 遺言は、判断能力があるうちは、死期が近くなってもできますが、判断能力がなくなってしまえばもう遺言はできません遺言をしないうちに判断能力がなくなったり亡くなられてしまっては手遅れなのです。

 そのために、家族の悲しみが倍加する場合もあることでしょう。すなわち、遺言は、元気なうちに、万が一の備えとして作成しておくべきものなのです。

 ちなみに、遺言は、満15歳以上になれば、いつでもできます(第961条)
遺言がないとどうなるのか
 遺言がないときは、民法が相続人の相続分(このことを法定相続分といいます。)を定めていますので、これに従って遺産を分けることになり、このことを法定相続といいます。

 相続順位は第1位:被相続人の『第2位:被相続人の『直系尊属第3位:被相続人の『兄弟姉妹』の順になり、(第887条、第889条)法定相続分は以下のとおりになります。

1.『』及び『配偶者』が相続人であるとき
    『』の相続分及び『配偶者』の相続分はそれぞれ2分の1です。
   (第900条1号)。『』が数人あるときは、各自の相続分は、均等分に
   なります。(900条4号)。

2.『配偶者』及び『直系尊属』が相続人であるとき
    『配偶者』の相続分が3分の2、『直系尊属』の相続分が3分の1です   (第900条2号)。『直系尊属』が数人あるときは、各自の相続分は、
   均等分になります。(第900条4号)。
    また、直系尊属の場合、生存するのみの相続となります。つまり、後
   に出てきます代襲相続ありません

3.『配偶者』及び『兄弟姉妹』が相続人であるとき
    『配偶者』の相続分が4分の3、『兄弟姉妹』の相続分が4分の1です
   (第900条3号)。『兄弟姉妹』が数人あるときは、各自の相続分は、
   均等分になりますが、父母の一方のみを同じくする『兄弟姉妹』の相
   続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹』の相続分の2分の1とな
   ります(第900条4号)。

 また、相続の開始以前に被相続人の『』あるいは被相続人の『兄弟姉妹』が死亡相続欠格※1・相続廃除※2によって相続権を失った場合、その方の『』が代わって相続します。(第887条2項本文・第889条2項)。これを代襲相続といい、代襲相続する方を代襲者代襲相続される方被代襲者といいます
 先程の「『直系尊属』に代襲相続ありません」というのは民法にそのことについての規定がないからです。
1詳しくは下記「遺言の手続き」の項の『自筆証書遺言』にて記載いたしましたので
  ご参照願いします。
2遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待・侮辱あるいは著しい非行があ
  った場合、被相続人は家庭裁判所申し立てる事によって、当該推定相続人の相続権
  の廃除ができます(第892条)遺留分については下記「遺言事項」の項の2にて
  記載いたしましたのでご参照願います。)

 この様に相続分の割合については抽象的にしか定まっておらず、遺産の帰属具体的に決めるためには、相続人全員遺産分割協議をして決める必要があります。

 しかし、自主的に協議をまとめるのは、必ずしも容易なことではありません。協議がまとまらない場合には、家庭裁判所で、調停又は審判で解決してもらうことになりますが、これも、争いが深刻化してしまうことが多々あります。冒頭の記述で「遺言がないことにより~」という件はこのことを指します。

 そこで、遺言で、例えば、妻Aには自宅と現金何々万円、長男Bにはマンションと預金何々万円、二男Cには別の土地と現金何々万円、長女Dには貴金属類と預金何々万円といったように具体的に決めておけば、争いを未然に防ぐことができるわけです。

 また、相続人間の実質的な公平を図るためにも、例えば子供の頃から遺言者と一緒になって家業を助け、苦労や困難を共にして頑張ってきた『』と、そうではなくあまり家に寄りつきもしない『』というケースだと、法定相続だと均等分になりますが、遺言でそれなりのを設けてあげる必要があるでしょう。
 すなわち、遺言者が、自分のおかれた家族関係をよく頭に入れてその家族関係に最もぴったりするような相続の仕方遺言きちんと決めておくことは、後に残された方にとって、とても有り難いことであり、必要なことなのです。
遺言の必要性が特に強い場合
 上記のように遺言者が、ご自分のおかれた家族関係や状況をよく頭に入れてそれにふさわしい形で財産を承継させるように遺言をしておくことが、遺産争いを予防するため、また後に残された者が困らないために、必要なことであるのはもちろんのことですが、下記1から7のような場合には、遺言をしておく必要性がとりわけ強くなります。


1.夫婦の間子供がいない場合
  夫婦の間子供がいない場合に、法定相続となると、片方配偶者の財産
 は、その『両親』が既に亡くなっているとすると、『もう片方配偶者』が
 4分の3、片方配偶者の『兄弟姉妹』が4分の1の各割合で分けることになり
 ます。
  しかし、長年連れ添った『もう片方配偶者』に財産を全部相続させたい
 思う方も多いでしょう。そうするためには、遺言をしておくことが絶対必
 要なのです。『兄弟姉妹』には、遺留分がありませんから、遺言さえして
 おけば財産を全部長年連れ添った配偶者に残すことができます

2.再婚をし、先妻の『』と『後妻』がいる場合
  先妻の『』と『後妻』との間では、とかく感情的になりやすく、遺産争
 いが起こる確率非常に高いので、争いの発生を防ぐため、遺言できちんと
 定めておく必要性があります。

3.『長男のお嫁さん相続人ではない人)に財産を分けたい場合
  長男死亡後、その『お嫁さん』が亡夫の親のお世話をしているような場
 合には、その『お嫁さん』にも財産を残してあげたいと思うことが多いと思
 います。
  ですが、『お嫁さん』は相続人ではないので、遺言で『お嫁さん』にも
 財産を遺贈する旨定めておかないと、『お嫁さん』は何ももらえないこと
 になってしまいますので注意を要します。
長男のお嫁さん』を『長女のお婿さん』と読み替えても同じことがいえます。ど
 ちらも「相続人ではない人」が対象になるからです。しかし、どちらも養子縁組をし ていれば相続人になるのでこのケースには当てはまらなくなります

4.内縁の『配偶者』の場合
  長年夫婦として連れ添ってきても、婚姻届けを出していない場合には、い
 わゆる内縁の夫婦となり、内縁の『配偶者』に相続権がありません。した
 がって、内縁の『配偶者』に財産を残したい場合には、必ず遺言をして
 かなければなりません

5.個人で事業を経営したり、農業をしている場合などは、その事業等の財
 産的基礎複数の相続人に分割してしまうと、上記事業の継続が困難となり
 かねません。
  このような事態を招くことを避け、家業等特定の者に承継させたい
 合には、その旨きちんと遺言をしておかなければなりません

6.上記の各場合のほか、各相続人毎承継させたい財産を指定したいときと
 か(例えば、不動産は、お金や預貯金と違い、事実上皆で分けることが困難
 でしょうから、これを誰に相続させるか決めておかれるとよいでしょう。)
  あるいは、身体障害のある子に多くあげたいとか、遺言者が特に世話にな
 っている親孝行の子に多く相続させたいとか、可愛いくてたまらない孫に遺
 贈したいとかのように、遺言者のそれぞれの家族関係の状況に応じて
 体的妥当性のある形で財産承継をさせたい場合には、遺言をしておく必要が あります

7.相続人が全くいない場合
  相続人がいない場合には、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属しま
 す。したがって、このような場合に、3の内縁の『配偶者』や特別お世話に
 なった人に遺贈したいとか、お寺や教会、社会福祉関係の団体、自然保護団
 体、あるいは、ご自分が有意義と感じる各種の研究機関等に寄付したいなど
 と思われる場合には、その旨の遺言をしておく必要があります
遺言事項
 民法上規定されている遺言事項について、限定列挙すると以下のとおりになります。
  項 目 内  容
法定相続 ① 推定相続人廃除廃除取消(第893条、
  第894条第2項)1

② 相続分指定および指定の委託(第902条)2
③ 遺産分割方法指定および指定の委託、または
  (5年を限度に遺産分割禁止(第908条)
④ 遺産分割の際の担保責任に関する別段の定め
 (第914条)3
財産処分 ① 包括遺贈及び特定遺贈(第964条)
② 以下の事項について別段の定め
 (イ) 受遺者の相続人による遺贈承認放棄
   (第988条)
 (ロ) 遺言効力発生前受遺者死亡による遺贈     失効(第994条第2項ただし書)
 (ハ) 受遺者果実取得権(第992条ただし書)
 (ニ) 遺贈無効又は失効の場合における財産の帰属
   (第995条ただし書)
 (ホ) 相続財産属しない権利遺贈における遺贈義   務者責任(第997条第2項ただし書)
 (ヘ) 第三者権利の目的たる財産遺贈(第1000条   ただし書)
 (ト) 受遺者負担付き遺贈放棄(第1002条第2項   ただし書)
 (チ) 負担付き遺贈受遺者免責(第1003条ただし   書) 
遺言の執行・撤回 ① 遺言執行者指定および指定の委託(第1006条第  1項)
② 以下の事項について別段の定め
 (イ) 遺言執行者復任権(第1016条ただし書)
 (ロ) 共同遺言執行者(第1017条ただし書)
 (ハ) 遺言執行者報酬(第1018条ただし書)
③ 遺言の撤回(第1022条)
遺留分 目的物の価額による受遺者又は受贈者の負担額に関する別段の定め
(第1047条第1項第2号ただし書)
身分上の事項 ① 遺言認知(第781条第2項、戸籍法第64条)1
② 未成年後見人未成年後見監督人指定
 (第839条、第848条)
条文に遺言による旨の定めはありませんが、遺言によってできると解釈されている事項 ① 祭祀主宰者指定(第897条1項ただし書)
② 特別受益の持戻し免除(第903条3項)
民法以外の法律で遺言事項が定められているもの ① 一般財団法人設立(一般社団法人及び一般財団法人  に関する法律第152条第2項)1
② 信託設定(信託法第3条第2号)1
③ 保険金受取人変更(保険法第44条第1項)

 ただし、これらの事項はは遺言によらず生前行うことが一般的でしょう。
1遺言執行者選任必要です。
2相続時に遺留分侵害額の請求(第1046条)をされることのないように注意する必要
  があります。 遺留分侵害額の請求については相続相続手続チェックリストより
  続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以
  内の項にて記載しましたのでこちらからお願いします。
 遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外相続人に対して留保された相続財産の割合をいいます。遺留分権利者が複数いる場合には下記の遺留分の割合に上記の法定相続分の割合を乗じて算出します。
1.直系尊属のみ相続人である場合は被相続人の財産3分の1
2.それ以外の場合は被相続人の財産2分の1
(第1042条)
3詳しくは相続遺産分割の項にて記載しましたのでこちらからお願いします。

 上記以外のことを遺言に記載しても、法的効果はありません

 この場合、付言事項として記載するか、『エンディングノート』の記載になります。             
遺言の手続き
 遺言は、遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が定められています。冒頭でも記述したとおり民法定められた方式に従わない遺言は全て無効です。(第960条)

 「あの人は、生前こう言っていた。」などと言っても、法律上の効力はありません録音テープビデオにとっておいても、それは、遺言としては、法律上の効力がありません

 遺言の方式には、『自筆証書遺言』、『公正証書遺言』、『秘密証書遺言』という、3つの方式が定められています。(第967条)


 『自筆証書遺言』は、遺言者が、に、自ら遺言の内容の全文(目録を含むすべて)を手書きし、かつ、日付氏名を書いて、署名の下に押印することにより作成する遺言です。(第968条第1項)

 全て自書する必要があり、パソコンタイプライターによるものは無効です。

 ただし平成31年1月13日から,民法改正によりパソコン等で作成した目録を添付したり,銀行通帳のコピー不動産登記事項証明書等目録として添付することが認められるようになりました。(財産目録が複数のページに及ぶときは各ページ、両面にあるときは両面に署名押印を要します。)(第968条第2項)
 つまり、第1項で原則全文自書を要しますが、財産目録を添付すれば、その財産目録は自書である必要がないことを第2項で定められているわけです。

 『自筆証書遺言』は、自分で書けばよいので、費用もかからずいつでも書けるというメリットがあります。

 デメリットとしては、内容が簡単な場合はともかく、そうでない場合には、法律的に見て不備な内容になってしまったり、後に紛争の種を残したり無効になってしまう危険もあります。

 しかも、誤りを訂正した場合には、訂正した箇所に押印をし、さらに、どこをどのように訂正したかということを付記して、そこにも署名しなければならない(第968条第3項)など方式が厳格かつ煩雑なので、方式不備で無効になってしまう危険もつきまといます。

 そういった危険を防ぐために〝行政書士〟としてご相談者様遺言者)の相談をとおして、遺言書の内容の提案チェック必要な助言をさせていただきます。

 また、『自筆証書遺言』は、その遺言書を発見した方が、必ず家庭裁判所にこれを持参し、その遺言書を検認するための手続を経なければなりません。(第1004条第1項)

 さらに、『自筆証書遺言』は、これを発見した方が、自分に不利なことが書いてあると思ったときなどには、破棄したり、隠匿改ざん※をしたりしてしまう危険がないとはいえません。
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した方は相続人の欠格事由になります。(第891条第5条)
 つまり言い換えると、相続人となることができなくなります。この他にも・・・
1 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至ら
 せ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた
2 被相続人殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかっ方。
 ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者自己の配偶者若しくは直系血
 族であったときは、この限りではありません
3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし撤回し、取り消し、又
 は変更することを妨げた
4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ撤回させ取り消さ
 せ、又は変更させた
相続人となることができなくなります。(第891条第1項、第2項、第3項、第4項)

 また、『自筆証書遺言』は全文自書しないといけないので、当然のことながら、病気等手が不自由になり、字が書けなくなった方は、利用することができません

 上記のような『自筆証書遺言』のもつ様々なデメリットを補う遺言の方式として、『公正証書遺言』があります。


 『公正証書遺言』は、遺言者が、公証人の面前で、遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が、遺言者の真意を正確に文章にまとめ、これを遺言者及び証人読み聞かせ、又は閲覧させて公正証書遺言として作成するものです。(第969条第2号、3号)

 遺言者が遺言をする際には、どんな内容の遺言にしようかと思い悩むことも少なくないと思いますが、そのようなときは・・・

 行政書士〟が遺言者公証人の間に入って遺言書の内容について提案をし、親身になって相談を受けながら、必要な助言をしたりして、遺言者公証人とのやりとりを通じて遺言者にとって最善と思われる遺言書作成の一助をさせていただきます。

 公証人は、法律の専門家なので、方式の不備遺言無効になるおそれもありません。『公正証書遺言』は、『自筆証書遺言』と比べて、安全確実な遺言方法であるといえます。(『自筆証書遺言』の方式の不備による遺言無効を防ぐのが〝行政書士〟の役割であることは先述の通りです。)

 また、『公正証書遺言』は、家庭裁判所で検認手続を経る必要がないので、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。さらに、原本が必ず公証役場に保管されますので、遺言書破棄されたり隠匿改ざんをされたりする心配も全くありません

 また、遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し印を押すこととされていますが、遺言者署名することができなくなった場合でも、公証人遺言者の署名を代書できることが法律で認められています。(第969条第4号)

 なお、遺言者が高齢で体力が弱り、あるいは病気等のため、公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が、遺言者の自宅又は病院等出張して遺言書を作成することもできます。

 以上のとおり、『公正証書遺言』は、『自筆証書遺言』と比較すると、メリットが多く、安全確実な方法ですが、その反面遺言者にとっては、費用のかかることと必ずしもいつでも作成できるわけではないというのが難点かと思います。

 なお、『公正証書遺言』をするためには、遺言者真意を確保するため、証人2人の立会いが義務づけられています。(第969条第1号)
 ただし、以下の方は遺言の証人又は立会人なることができません
1.未成年者
2.推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
3.公証人の配偶者四親等内の親族書記及び使用人

 『秘密証書遺言』は、遺言者が、遺言の内容を記載した書面(『自筆証書遺言』と異なり、自書である必要はないので、ワープロ等を用いても、第三者が筆記したものでもOKです。)に署名押印をした上で、これを封じ遺言書押印した印章と同じ印章で封印した上、公証人及び証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し、公証人が、その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後、遺言者及び証人2人共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。(第970条)

 上記の手続を経由することにより、その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき、かつ、遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが、公証人は、その遺言書の内容を確認することはできませんので、遺言書の内容に法律的な不備があったり、紛争の種になったり、無効となってしまう危険性ないとはいえません

 また、『秘密証書遺言』は、『自筆証書遺言』と同じように、この遺言書を発見した方が、家庭裁判所に届け出て検認手続を受ける必要があります。

 以上のようにこの遺言方式は使い勝手があまりよろしくなく、『公正証書遺言』より費用が安いことを鑑みて、遺言内容を頻繁に変えうるような状況等限られた場面でしか使うことはないのではないでしょうか。
公正証書遺言をするには、何を準備しておけばよいか
 『公正証書遺言』の作成するには、最低限下記の資料が必要です。なお、事案に応じ他にも資料が必要となる場合もありますが、その場合は当方でも準備のお手伝いをさせていただきます。

1.遺言者本人の本人確認資料(『印鑑登録証明書』又は『運転免許証
               、『住基カード』等顔写真入りの公的機関の
                発行した証明書いずれか一つ。)

2.遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本』、『除籍謄本』等

3.財産を相続人以外の遺贈する場合その方の住民票』(法人の
                    場合資格証明書』)

4.財産中不動産を含む場合:『登記事項証明書』(登記簿謄本)と、                 『固定資産評価証明書』又は固定資産税・
              都市計画税納税通知書中の『課税明細書

5.なお、前述のとおり、『公正証書遺言』をする場合には、証人二人が必  要ですが、遺言者の方で証人を用意される場合には、証人予定者お名  前ご住所生年月日及び職業を『メモしたもの』が必要です。
口がきけない方や耳が聞こえない方でも、公正証書遺言ができるのか
 口のきけない方でも、自書のできる方であれば、公証人の面前でその趣旨を自書することにより(筆談により)、病気等手が不自由自書のできない方は、通訳人の通訳を通じて申述することにより、公証人その意思を伝えれば、『公正証書遺言』が作成できます

 そのことにより、もともと口のきけない方も、あるいは、脳梗塞で倒れて口がきけなくなったり病気のため気管に穴を開けたりして口のきけない状態になっている方でも、『公正証書遺言』が作成できます。そして、実際に、公証人が、病院等に赴いて口のきけない方遺言書を作成することも珍しくありません。

 また、『公正証書遺言』は、作成後遺言者及び証人の前で読み聞かせることにより、その正確性を確認することになっていますが、耳の聞こえない方のために、読み聞かせに代えて通訳人通訳又は閲覧により、筆記した内容の正確性を確認することで作成できます
亡くなった方について公正証書遺言が作成されているかどうか調べられるか
 平成元年以降に作成された『公正証書遺言』であれば、亡くなった方が死亡したという事実の記載があり、かつ、亡くなった方との利害関係を証明できる記載のある『戸籍謄本』と、『ご自身の身分を証明するもの』(運転免許証等顔写真入りの公的機関の発行したもの)を公証役場へ持参していただいて調べることができます。
遺言の訂正や取消し(撤回)が事由にできるのか
 遺言は、人の最終意思を保護しようという制度ですから、訂正や取消し(遺言の取消しのことを、法律上は「撤回」と言います。)は、いつでも、また、何回でも遺言の全部又は一部撤回することができます。(第1022条)

 遺言は、作成したときには、それが最善と思って作成した場合でも、その後の家族関係を取り巻く諸状況の変化に応じ、あるいは、心境が変わったり考えが変わったりして、訂正したり、撤回したいと思うようになることもあると思います。さらに、財産の内容が大きく変わった場合にも、多くの場合、書き直した方がよいといえるでしょう。

 以上のように、遺言は、遺言作成後の諸状況の変化に応じて、いつでも、自由に、訂正や、撤回することができます。ただ、訂正や、撤回も、遺言(その種類は問いません。)の方式に従って、適式になされなければなりません。(『自筆証書遺言』の訂正については上記のとおりです。)
条件付きで第三者に財産を与えるという遺言はできるのか
 民法は、財産の遺贈を受ける人(「受遺者」と言います。)に一定の負担を与える遺贈のことを、「負担付遺贈」として、規定を置いています。

 そこでは、負担付遺贈を受けた方は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います。(第1002条第1項)

 そして、負担付遺贈を受けた方がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができます。

この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消し家庭裁判所に請求することができます。

 また、受遺者遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき方は、自ら受遺者となることができます。ただし、遺言者がその遺言別段の意思を表示したときは、その意思に従うことになります。
相続人に指定したい推定相続人が遺言者より先になくなった場合どうなるのか
 相続人受遺者が、遺言者の死亡以前に死亡した場合(以前とは、遺言者より先に死亡した場合だけでなく、遺言者同時に死亡した場合も含みます。)、遺言の当該部分失効してしまいます。(受遺者の死亡による遺贈の失効は第994条)

 したがって、そのような心配のあるときは、予備的に、例えば、「もし、A(相続人または受遺者)が遺言者の死亡以前に死亡したときは、その財産を、〇〇に相続させる。」と決めておけばよいわけです。これを「予備的遺言」といいます。
公正証書遺言の作成手数料
 『公正証書遺言』の作成費用は、手数料令という政令で法定されています。

1.まず、遺言の目的たる財産の価額に対応する形で、その手数料が、下記
  のとおり、定められています。
目的の価額 手数料
100万円以下 5000円
100万円を超え200万円以下 7000円
200万円を超え500万円以下 11000円
500万円を超え1000万円以下 17000円
1000万円を超え3000万円以下 23000円
3000万円を超え5000万円以下 29000円
5000万円を超え1億円以下 43000円
1億円を超え3億円以下 43000円に超過額5000万円までごとに13000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 95000円に超過額5000万円までごとに11000円を加算した額
10億円を超える場合 249000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額
2.上記の基準を前提に、具体的に手数料を算出するには、下記の点に留意が必要です。

 ①財産の相続又は遺贈受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上
  記基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手
  数料額を合算して、当該遺言書全体手数料を算出します。

 ②遺言加算といって、全体の財産1億円以下のときは、上記①によって算
  出された手数料額に、1万1000円が加算されます。

 ③さらに、遺言書は、通常、原本、正本、謄本を各1部作成し、原本は法律
  に基づき役場で保管し、正本謄本遺言者に交付しますが、原本につ
  いてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令
  で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごと
  250円手数料加算され、また、正本謄本の交付にも1枚につ
  き250円の割合の手数料が必要となります。

 ③遺言者病気又は高齢等のために体力が弱り公証役場に赴くことができ
  ず公証人が、病院ご自宅老人ホーム等に赴いて公正証書遺言
  を作成する場合には、上記①の手数料50%加算されるほか、公証人
  の日当と、現地まで交通費がかかります。